自動運転と通信インフラ

「セルラーV2X」への期待と普及への課題――クルマ向けLTE新規格の初期仕様が完成 | ビジネスネットワーク.jp

5G で定義する通信タイプとして、URLLC (ultra reliable and low latency communication) がある。そのユースケースとしてまず挙げられるのが自動運転だ。

低遅延や低パケットロスという技術的要件を満たすように標準化するという難しさもさる事ながら、それを必要とされる場所で安定的に供給するという事が求められるため、通信事業者がサービスを行うにあたってかなりチャレンジングな領域である。

まず、自動運転において無線通信がどのような位置づけなのかが重要になる。現状の自動運転では、カメラによる画像解析やレーダなどのセンサを使った、自律的かつ分散的な自動運転が主流だ。このような自律分散による自動運転社会の実現が中核にあり、その補助として通信が存在するというケースであれば、現状の通信インフラの延長でもいくらか実現性がある。

一方で、自動運転のためには、自律分散的なシステム構築では限界があり、商用化のためには通信インフラとの融合が必要不可欠という話になるとかなり厳しい。通信が完全に人の命を預かることになる。もちろん、今でも緊急呼を扱うなどという面では社会的責任を負っている側面があるが、その重みが更に大きくなる。

後者を実現するためには、記事の中で、「3キャリアの回線を使う、ITS用のMVNOを作るという考え方もあるかもしれない」というように、エリア的な補完関係や設備的な冗長確保が必須となる。しかし、やはりそれでもどのキャリアもカバーできない瞬間というものは少なからず存在するだろうし、その瞬間に事故が起こりうる可能性もはゼロではない。その時、誰がその事故に法的責任を負うべきかという議論もしなければならない。

落とし所としては、ハイブリッド(通常は URLLC による通信を活用し、URLLC がカバーできていないエリアでは自律分散制御による自動運転にシフトする)という考え方に落ち着くだろう。例えば、玉突き事故を防止するために、数ホップ先の事故をキーとして後続車両に対して緊急停止を行うような機能をインフラを用いて提供するとする。これが使える場合は、事故のリスクを回避する事ができるので、隊列走行の間隔を(電車の車両が連結されているような間隔くらいに)狭くするようにする。使えない場合には、通常、交通ルールで決められているような人間が取るべき車間距離と同等程度を確保する。

全てのシステムは万能ではないので、最低ラインを保証するための機能は何か、それをインテグレートさせるための機能は何かを議論した上で、自動運転が通信インフラに求めるのはどの部分かを明確にしなければ、規格化されたとしてもそれを商用レベルで展開する事は難しいだろう。