Precoding

Precoding - Wikipedia, the free encyclopedia

MIMO によって情報を効果的に伝送するにあたって必要なのが、(ノイズの除去に加えて)伝送路推定である。

受信側で伝送路が推定できれば、ノイズを除去した後、それぞれの伝送路の特徴を元にして送信されてきた信号を復調する事ができる。受信側の信号を r, 送るべき信号を s, 伝送路を h, ノイズを n とすると、r=sh+n で表される。

伝送路の推定を送信側でしておけば(すなわち h をキャンセルさせるような信号を予め掛け合わせて送信しておけば)、受信側で特に複雑な計算を行わずとも利得を最大化できるような形で信号を伝送する事ができる。これが Precoding の考え方だ。位相が 90 度遅れるような環境であれば、あらかじめ 90 度早めて送れば受信する際にはピッタリとする、というようなイメージ。受信側で余計な計算が要らなくなるし、伝送路の影響で信号が崩れにくくなれば、それだけノイズの影響を受けづらくなる。

カバレッジ

To Get Smart Cities, We First Need 5G Networks - Morning Consult

この記事でも、5G が求める速度を出すためには、今までのものよりも高い周波数帯を使用し、高密度にセルを配置する必要があると述べている。周波数が高ければ、電波の回り込みを回避することが出来るため、セル同士の電波干渉が生じにくい。一方で、セルそれぞれが作るカバレッジの重なりも減ることから、密度がより重要になる。アメリカのような土地の広い国で、高カバレッジを達成するのは難しい事から、5G はスポット的な使い方になるのではないかという見方もある。

ドコモCTO尾上氏が「5Gの神話と真実」解説、先行導入で断片化の懸念も - ケータイ Watch

docomo によるとそれは単なる神話にすぎない、高周波数帯を使用しても Massive MIMO や C-RAN を併用すればカバレッジの確保が可能性がであるとの事だ。Massive MIMO が出てくるのは、指向性を極限まで高める事で接続可能距離を高めるという事なのだろう。よくよく考えて見ると、通信が確立されたらビームフォーミングが出来るだろうけれど、在圏時(待機状態)は端末は基地局と通信をしないだろうに、基地局は一体どうやって端末の位置を高精度に補足するのだろうか。

それは置いておいて、従来の通信の拡張となる超高速通信であれば、スポット的な使い方でも良いだろうが、Massive MTC や Ultra-Reliable の用途では、カバレッジは死活問題になるだろう。Massive MTC 兼用でカバレッジ確保のために周波数帯で広くカバーし、高周波数帯の基地局をスポットで置いていくような感じになるのかなと。日本では、docomo なんかは狭い土地柄を活かして C-RAN によってできるだけ高密度に配置していく事を考えているのだろう。

自動車業界と通信業界が深に交わる日に向けて

Automakers Cozy Up to Intel, Qualcomm for 5G Standards | News & Opinion | PCMag.com

欧州の自動車メーカが IntelQualcomm といった企業に接近しているという話。欧州を中心とした GSMA が cdmaOne を牛耳る Qualcomm と激しい戦いを繰り広げていた過去を振り返ると、なかなか感慨深い。ちなみに、激しい戦いを繰り広げたと勝手に記憶しているけど、そういうものを述べた記事はネットになかった。

自動車電話というものがあり、今の KDDIトヨタ資本の TWJ が母体の一つになっていたりと、そこまで遠い存在ではない二つの業界である。しかし、何十年もの間、自動車は自動車、通信は通信とそれぞれ固有に進歩を遂げていたわけで、お互いのノウハウが重なるというところはあまりなかった。自動車の制御に関する通信に、セルラ通信の技術が使われる事はほとんどない。自動車の特性を活かした無線通信インタフェースが備わっているという事もほとんどない(当然、自動車に限らずモビリティは想定しているが)。

両者が密接に関わるポイントとしては、次の二つのだろう。

  1. 自動車の制御に関わる部分にセルラ通信による介入が出てくる。例えば、基地局から危険を知らせる信号を受信した場合、より低いレイヤで自動車の制御(緊急ブレーキなど)が行われる。
  2. 自動車の制御のため、より低遅延かつ、セキュアなセルラ網の設計が行われる。緊急信号の類が悪意のあるノードによる虚偽であってはならないからだ。

memo 2016/09/25

T-Mobile, Ericsson achieve 12Gbps in 5G trial - Computer Business Review

Ericsson と T-mobile の実証実験。12Gbps というのは伝送速度と思われる。伝送速度もさることながら、2msec の低遅延とのこと。遅延というと RTT(往復遅延)なのかなという印象を受けるが、多分 TTI(片方向遅延)なのだろう。

世界主要ベンダとの5G実験の概要 | 企業情報 | NTTドコモ

docomo は 10Gbps 超の伝送速度(セクタスループットでみると 20Gbps 超)に加え、0.1 msec を下回る TTI を目指しているとのこと。低遅延は、ultra-reliable を視野に入れてだろう。しかしまぁ、docomo 連合の布陣といったら。これだけマルチベンダでもそれぞれの旨味が出るほどの市場規模を docomo だけで生み出せるということか。

NOMA

「5G」の技術開発をフルラインアップで紹介、ドコモの「5G Tokyo Bay Summit」 - WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

NOMA は Non-Orthogonal Multiple Access の略で、NTT docomo が開発し、5G への標準化を提唱している多元アクセス技術。ベースは OFDMA であるが、そこから更に電力ドメインでの収容を狙う。

多元アクセスの方法は、人間のおしゃべりに例えられる。多くの人が同時に喋ると、それぞれの声がぶつかって、誰も何も聞き取れなくなる。言葉を解釈するためには、何かしらの方法で雑音の中からおしゃべりを分離させる必要がある。

時間に分けて分割するのは、時分割多重アクセス (Time Division Multiple Access). ある時間に区切って、その時間帯は一人の人しか喋らせないようにする。そうすれば、(同時に喋る人がいなくなるので)聴き取れる。という考え方。

周波数に分けて分割するのは、周波数分割多重アクセス (Frequency Division Multiple Access). 喋る人に応じて、声の高さを変えるようなイメージ。例えば声の高い人と低い人が同時に喋る分には、いくぶん聞き分けがしやすい。という考え方が近い。多重化させる周波数(サブキャリア)の間隔を極限まで狭くした上で時分割と併用すると、OFDMA (Orthogonal Frequency Multiple Access) となる。

通信に合わせて専用の符号を用いるのが、Code Division Multiple Access. Code(符号)はおしゃべりをするための言語と考えるとイメージしやすい。英語ばかりが聞こえる中で日本語で喋ると、日本語だけは聴き取れる、というイメージ。

NOMA は、OFDMA に加えて電力のドメインでの多重化を狙う。声の強さをイメージすると良いだろう。遠くの A さんと喋る時には大きな声で、近くの B さんには小さな声で喋る。A さんが聞くときには B さん向けの小さな声はかき消されている。B さんが聞く際には、A さんの声を聞き取ってその成分をキャンセルさせて、B さん向けの声を取り出すという感じ。

となると、NOMA はちょっと人間で再現させるには難しい手法にみえる。実際、通信機器でやるにしてもちょっと難しい(コストがかかる)ようだ。OFDMA なんかでも一昔前は実現させるのはちょっと難しい技術だったわけで、そうかんがえるとチップの進化は凄い。

ちなみに、docomo は周波数帯によって NOMA を使うか Massive MIMO を使うかの分類をする様子。主にビームが切れやすい高周波数帯では Massive MIMO で、回り込みしやすい低周波帯では NOMA を考えているとのこと。Massive MIMO の方が周波数帯効率は良いだろうから、Massive MIMO が使いづらい(きちんと指向性のあるビームを作りづらい)帯域では NOMA を使っておくか、という感じなのかも。あとは、協同研究しているベンダとの絡みもあるのだろう。

端末とインフラ

Samsung Is Cooperating With US Carriers For 5G Deployment | Androidheadlines.com

バイルの領域で Samsung というと、端末メーカというイメージが強いけれど、この会社は基地局といったインフラの装置も提供している。

日本のメーカなんかも、3G の頃くらいまでは端末もインフラも手がけているところが多かったけれど、今ではほとんど(特に端末)撤退してしまっている。フィーチャフォンの頃は、端末含めてネットワークをデザインするという考え方だったのかなという印象だが、iOSAndroid が出てからは、完全に分離してしまった。端末作っていたソニーエリクソンソニーになったのは、インフラの装置を作っているエリクソンにとって(両方を有している)旨味が無くなったのだろうと勝手に思っている。

ドコモ、度重なる通信障害への対策を発表 - ケータイ Watch

ただ、実際に端末とインフラが分断されると、上記の記事にもあるように予期せぬバーストトラフィックが発生するといった問題が起こる。これは 2012 年の話で、スマートフォンシフトが始まった時期だけれど、5G で更に爆発的にトラフィックが上がった時に、同じ問題が起こりうる。

こういった問題を起こさないという意味では、端末に関するノウハウも持っている方がインフラ整備には有利なのだろうけれど、どの会社も大きくなりすぎているのでそのノウハウをインフラに活かせるところは皆無なのかもしれない。

D2D

D2D Communications - What Part Will It Play in 5G? - Ericsson Research BlogEricsson Research Blog

5G で検討されている通信の一つが D2D. LTE でも Rel.12 から標準になっているようだ。

現行のセルラシステムでは、スマートフォンなどの端末は基地局と通信を行う事で、ネットワークの接続性を確立している。5 メートル離れた人と電話するにも基地局をインタフェースとして RAN を経由する。隣り合った人に LINE で画像のやり取りをするにしても基地局を経由してコアに収容されインタネット網に入って LINE のサーバに接続され、というような流れになる。よく、トランシーバを引き合いに出されて携帯電話が繋がる仕組みは説明される。

一方で D2D は、トランシーバのような仕組みで通信を行う。iPhone を使っている人であれば、AirDrop と言われる方がピンとくるかもしれない。ようするに、データが基地局などのインフラを経由せずに、端末間で直接やりとりされる。こうする事で、余計なトラフィックがセルラネットワークを介さないので、高スループットや低遅延が期待できる。

しかしながら、たくさんの端末がD2D でやりとりしたとして、それらが好き勝手に通信を行なった場合、無線リソースの衝突といった問題が起きる。10 年ほど前、アドホックネットワークは盛んに研究されていたが、それらは互いに自立分散的に通信を行うため、多くは干渉、フレーム衝突の問題をクリアする事ができず、ネットワーク全体のスループットが上がらないという悩みを持っていた。

D2D では、基地局が D2D の通信も制御する事で、セル全体のスループットを上げようとしている。ある端末が基地局と通信させる予定のリソースを、その端末が D2D で使えるように割り当てるイメージだ。

とはいえ、これはアプリレイヤとしてみると、クライアントサーバモデルではないので、いわゆる P2P の通信でのみ有効になるだろう。当分の用途としては、車車間の緊急性を伴う通信、または、簡易な動画といったデータのやりとり程度だろうか。

今後、こういった機能を積極的に使うという事であれば、セルラ・ネットワークの機能を API としてアプリケーションに提供できないといけないのだろうなぁというところ。